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その中に未来を感じた。BMW i3(初見と試乗、所感)

2016/09/27

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BMW i3。

i3はBMW製ながらも、他車流用ではなく、この車のために専用に開発されたプラットフォームを持っています。
テスラのように、バッテリーを平たく配置したシャーシに、カーボンモノコックのセルを載せたもの。
カーボン繊維自体は日本製で、それをアメリカの新しく建設した工場に送って布地にし、さらにはドイツで成形する、という手の込みよう。

室内にも成長が速く森林資源的に環境負荷の小さいユーカリや麻を使用したり、と製造にあたってもエミッションの少なさを考慮しているという徹底ぶりです。
なお、ドイツの工場のエネルギーは風力発電で賄われるようですね。

そういった「イメージ作り」から消費者に訴えかけていることもi3およびiブランドの大きな特徴です。
日本の繊維をアメリカ~ドイツと経由しないと成形できないということは、それぞれの国固有の技術があるということで、移転不可能ということなのでしょうね(アメリカの”線維化”は日本かドイツで行っても良さそうではありますが。人件費を考えてもわざわざ工場建設するほどの差があるとは思えない)。

車体自体の価格は2種類で、ピュアEV(航続距離130-160キロ)が499万円、レンジエクステンダー付きのモデル(航続距離300キロ)が546万円。
購入にあたっては補助金が40~75万円ほど出るそうですので、実質的に両車の価格差が小さくなる(レンジエクステンダーつきのほうが補助金の額が大きい)ようですね。
自宅に充電器を設置し、それを利用すれば7~8時間で満充電できるとのことで、実用性もまずまずありそうです。

画像で見た時(実車を見ていない状態で)の全体的な印象としては、BMWらしからぬ丸さと厚みがあり、「ずんぐりむっくり」。
ところどころの処理が斬新ですが、全体的にはその性能や構造ほどの目新しさがないのが残念で、ここは思いっきり「未来」を表現してほしかったなあ、と考えていました。
i3は一部の人を対象にしたものではなくて、より幅広い普及を目指したもので、ぼくの好きな珍車ルックや、未来的なブッ飛んだルックスを採用するのはやはり難しいのかもしれない、と思っていた次第です。

さて、実車を見たところ、写真で見るよりも遥かにイケてます。

従来の車とはディメンションやプロポーションが異なり、これはそのプラットフォーム形状とカーボンセル採用というところに起因し、従来の車にあるはずのものがなかったり、その逆もあります。
そのために想像していたよりもはるかに「未来」を感じさせる車で、この部分は正直なところかなり驚きました。

Cピラー部分のガラス面積が大きかったり、Bピラーが無かったり、サッシュレスドアであったり、キドニーグリルが塞がれていたり、エンブレム周辺が加飾のついた二重構造であったり、といったところがパッと見て印象に残ります。
もちろんテールランプも同様で、完全にリヤハッチの内側に収納され、リヤハッチはフラッシュサーフェス化されています。
それらはいずれも画像ではわかりにくいところで、その意味ではi3は逆フォトジェニックとも言えますね。

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外装については、とにかくその構造に起因する利点、EVであるという利点(ラジエターが不要)を活かした、EVにしか出来ないデザインを採用しており、これは非常に優秀だと感じるところですね。
各部照明も当然LEDなので高級感と未来的な印象があり、EVを実用品としてではなく、「高価ではあるが、価値が分かる人には理にかなった買い物」と思わせる手法はテスラとも通じるところがあると思います。

ハイブリッドやEVはどうしても高価になってしまうので、いかに燃費や維持費が安くても、結局のところ安価なガソリン車、燃費の良いガソリン車と比べると「高い」買い物になるわけです。
そこをどうやって買わせるのか、というのが各メーカーによってそれぞれ手法が異なり、非常に興味深いところですね。
その意味においてはBMW i3は成功しているとも考えられ、安っぽさは無く、初見で「おお」と思わせるものがあると思います。

内装については、これも画像では結構チープに見えるのですが実物は素材に独特の質感があり、新しさを感じさせるので、安っぽいとは感じませんでした。
全体的にインテリアは非常にシンプルですが、未来感漂う先進性のあるもの。
液晶も非常に高精細で見やすく、充電状態など一目で判断できるようになっています。

その上で不要な表示や装備は一切なく、ハイブリッド車にありがちな「過剰な表示」を排していることで上品さを演出しているようですね。
シート表皮やダッシュボードなども独特のデザインを持ち、重厚な高級感があるBMW既存車種と差別化を図っていますが、一部スイッチなどは共有しています。

なお、メーターパネルは存在せず、車両の情報はすべて液晶ディスプレイに表示され、これも新しい部分ですね(すでに一部ではスタンダードになりつつある)。
ナビゲーションシステム(画面が大きい)には充電スタンドが表示されるのですが、思っていたよりもたくさん存在するようで、充電に困ることはなさそうです。

画像でも目を引きますが、ステアリングホイール上のブルーのラインはなかなか秀逸で、常に目に入る部分だけに実際に所有した際の満足感を高めてくれると思います。
サイドシルの「カーボンむき出し」もけっこうインパクトがあり、これはハイパフォーマンスカーのオーナーであればほぼ必ず気にいる部分だと思います。

もちろんBMWのは意図的にこれを行っているのであって、ハイパフォーマンスカーオーナーに向け、セカンドカー、サードカーとしての購買意欲喚起を狙ったものかもしれません。

乗り込んですぐに分かるのは前方視界の良さ。
このあたりアーバンモビリティに特化しているためでしょうね。
シートポジションも高くて非常に視界が良く、視界に関してはまずストレスを感じることはなさそうです。
なお、試乗中は非常に多くの視線を集め、これにはちょっと驚きました。

スーパーカーのような、とくに目を引くスタイリングではないと思っていただけに(どちらかというと実用性のために多少デザインを犠牲にしている)、道行く人々がジロジロと見てゆくのはちょっと意外です。

客観的に見てみると、その特殊なディメンション、妙に凝ったディティールはかなり異質なもので、他の車に混じると、なおのことその特異性が目立つようには感じます。
人々に見られているときは、グラスエリアの広さが逆に落ち着かなくさせるので、乗る人はけっこうそれを意識するかもですね。

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始動ボタンはステアリングコラム右上のシフトレバー上にありますが、心臓の鼓動のようなリズムでゆっくり点滅するのは新型ミニ(F56)と同じですね。
始動前は赤く光っていますが、始動後はここがブルーに変わります。
こういったインターフェースは非常に優れていると感じ、ここでも「通常の車とは違う」感が感じられ、排他性を高めているように思います。

パーキングブレーキを解除し、アクセルを踏んで走り出しますが(クリープは無し)、これがやはりEVならではの非常に力強いスタート。
何の苦もなく車体をぐいぐい押し出します。
EVで注意すべきはアクセルペダルの扱いで、i3の場合はアクセルペダルのみで加速減速をコントロールするように設計されています。

電動ラジコンカーのスロットルを操作するようなものですが、アクセルペダルをゆっくり踏むとゆっくり加速し、急に踏むと急に加速し(レシプロエンジンは回転数が上がるのを待つ必要がある)、アクセルペダルをゆっくり離すとゆっくり減速し、急に離すと急に減速します。
アクセルペダルを抜く時の力加減で回生ブレーキをコントロールできるわけですが、これ(回生ブレーキ)はぼくの感覚よりも強めで、慣れるのに何度かの信号停車を経る必要がありました。
ただ、回生についてはこの強力さによってi3特有の航続距離を出せていると思われ、これはドライバーが車に合わせるべきかと思います。

ステアリングは重くもなく軽くもなく、まさにちょうどよい重さ。
切れ角が大きいのか(細いタイヤの影響もある)かなり小回りがきき、そのためにあるていど重くしているのかもしれません(F56ミニクーパーSのほうがずっと操作感が軽い)。

走行時は非常に静かで、タイヤが細いこともありロードノイズも感じられません。
EVは車内が静かなので内装のビビリ音は致命的ですが、それもよく抑えられていますね。
段差を越えるときの挙動も、比較的ホイールベースの短い車である割には安定しており、不快な振動や動きもなく、そのあたりはやはりBMW、といったところです。

回生ブレーキが強いことを除くと通常の車とは違和感を感じることも無く、この回生ブレーキにも慣れるとまったく問題無く運転が可能。
EVだからといって特別な運転をする必要はありません。

急加速を何度か試みましたが、やはり最大トルクが瞬時に立ち上がるという電気モーターの特性上(モーターはBMW製らしい)、数値以上の加速感があります。
0-100km/h加速は7秒程度ですが、体感上はボクスターと同じ程度(5.5秒)に感じます。
電気モーターは回転数ゼロでも最大トルクを発生させますが、ガソリン(ディーゼルも)エンジンは回転数とともにトルクとパワーが上昇するため、その差異があるわけです。
もちろんその先や最高速に違いはあるのですが、通常使用における加速感という点では非常に優れており、楽しく運転が出来ることは間違いありません。

この点においても、EVということで何か犠牲になっているという印象は無く、完全新設計のメリットが発揮されているのでしょうね。
当然フル加速しても騒音や振動とは無縁ですが、加速時はミューンというモーターの音が聞こえ、新鮮でもあります。

ネガをあげるとすると、ややロールが大きいこと。
街中での試乗ということもあって「どれくらい踏ん張るか」は試すことが出来ませんでしたが、レーンチェンジではちょっとふらつく感じがあります。
日本仕様はMスポーツのサスペンションが入っているはずですが、それでもやはり揺れる感じはありますね。
コンパクトハッチとして見ると許容できるレベルですが、BMWの、とくにMスポーツのサスペンションが入っている、ということを考慮するとちょっと気になるところです(逆にメディアではこの点”しっかりしている”と評価されていますので反対の印象です)。

構成としては一番重いもの(バッテリー)がフロア下に位置するという低重心構造なのですが、それでもロールが大きいということは「ロールを許容する設定」である可能性もあり、これも運転感覚同様、従来のガソリン車の感覚で測ってはいけない部分かもしれません(タイヤサイズも特殊ですし)。
また、重心が異常に低い構造ですので、ある程度以上のロールはしないのかもしれません。

もうひとつのネガは、軽量化を考えていること、構造上スチールなど強固な素材を使用する必要がないためにドアの内張りやアウターパネルが開閉の都度に振動すること。
ただしこれは記載のように「カーボンシェル」という構造のためにドア(アウターパネル)の強度を考える必要がないので薄い素材でもOK(実際のところ外板はサーモプラスチック)ということもあり、これも従来の自動車と同じモノサシで測ることはできません。

上記二点、あくまでも「通常のガソリン車と比較して」というところではありますが、i3の構造を考え、理解するとけしてネガティブなポイントとは言えず、むしろぼくらの常識をi3に合わせないといけないのかもしれませんね。

BMW i3については今までの「自動車」という既成概念を外して考えないと正当な評価はできず、しっかりとバックグラウンドや構造・機能を理解する必要がある、と考えるわけです。

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電気自動車は将来的に大きな市場になることが予想できるものの、現時点ではまだまだ発展途上の工業製品です。
どのメーカーもそれはわかっていて、BMWはこのiブランド、アウディはe-tronブランドを立ち上げ、将来に備えています。

現状でEV市場で有力なのはテスラですが、これは以前に別に試乗記と考察を上げており、そちらを参考にしていただければと思います。
また、テスラは戦略上ターゲットを限定していますが、ターゲットを限定せずに幅広い普及を目指しているという点では、日産リーフが比較対象になるかもしれませんね。

以前にもリーフの試乗記をあげていますが、ここでぼくが思うのは、日産は既存車種のプラットフォームや製造設備を利用して最小のコストでスタートアップを行っており、対してBMWは工場新設、ブランド創設、車体も完全に専用設計、ということで最大とも言えるコストを投じている、という「差」。

これはいい悪いの問題ではなく、単純に経営的な判断ですね。
日産の手法では、仮に失敗した時もダメージは小さいと考えられます。新規ビジネス参入時には、ある種有効な手段でもあります。

反面、「新規性」や既存ブランドとの差別化を図りにくく、先進的な工業製品を展開する場合、その特徴を十分に伝えきれない可能性もあります。
プラットフォームが既存車流用なので、ガソリンタンクやエンジンなど、内燃機関車用に設計されたものをやりくりしており、そのために本質的にそれらが不要な「電気自動車」ならではのメリットを出しにくいという懸念もあるわけです。

重量が重くなったり、設計の自由度が低くなったり、そのために排他性のあるデザインが出来なかったり、ということですね。
電気自動車という「新しい乗り物」なのに、既存の枠組みの中に収まってしまうという矛盾を抱えることになります。
アウディもe-tronの試作車両を見る限り、この手法に近いのかもしれません(e-tron自体、一度はやめたり、また復活したりと安定しない)。

BMWの手法では、電気自動車という最新の工業製品を世に問い、それを普及させて覇権を握ろうという強い意思が見られ、デザインや装備(インターフェース)、上述した炭素繊維の加工・工場新設・専用ブランド展開やプロモーションなど、完全に「内燃機関を採用するどの自動車とも、今までのBMWとも、ほかメーカーの電気自動車とも違う」ということをアピールしています。

また、プロモーションが非常に優秀なので、ほかブランドの電気自動車が「ひどく中途半端なもの」に見え、「電気自動車を購入するならi」と思わせる部分があることも確かです。

反面、コストは膨大ですので、失敗した時のダメージも甚大となります。また、車両も高額になりがちなのも問題ですが、BMWではiブランドのコストを、既存BMW車にも負担させる方法で、長期的に改修してゆく方法を採っているようですね。

それぞれのメーカーの規模や技術力も関係するので一概に判断はできないのですが、BMWの決断は非常に勇気の要するもので、失敗したら関係者全て更迭では済まないほどのリスクだと思います。
いわば日産はローリスクローリターン、BMWはハイリスクハイリターンのようなイメージですが、日産にとって不幸なのはBMW(iブランド)の本気っぷりで、これによって一気にリーフの影が薄くなった印象すらありますね。

結果論になってしまいますが、日産が仮に新ブランドを設立してプラットフォームも新規開発していたのであればまた違った展開になっていたと思いますが、今の状況を見る限りでは、日産がリスクを嫌ったためにその(BMWに比べて少ない)投資すらも無駄になりかねない印象で、経営判断的には失敗の可能性もあり、リスクを踏んだBMWに軍配が上がりそうですね。

EVの場合、購入動機は「EVだから」というものが大きな部分を占めていると思います。
そして、EVだからという理由にも、様々なものが内包されると思うのですね。
環境意識とか、燃費(電費)とか、未来感、とか人それぞれでいろいろなものがあると思うのです。
そして、いずれの場合もある程度犠牲にするものがあると思います。
予算オーバーだったり航続距離だったり、デザインであったり、積載性であったり。
BMW i3の場合は、それらの「EVだから」という理由が他メーカーのEVよりも強く訴求しているように思われ、EVだから犠牲にしなくてはいけない部分が最小のように思えます。
EVというハンディキャップを克服し、従来の自動車にはない価値を提案してみせた、ということでは非常に高い評価ができますね。

ぼくの場合は通勤で往復70キロ程度を走行し、あとは最大でも片道120キロほどを走る程度で、その他は街中をチョコチョコ走る程度です。
となるとレンジエクステンダー仕様で十分にカバーできる用途であり、さほど飛ばすこともないので、i3の「最高時速150キロ」でもまったく不都合はありません。
充電は家庭用電源で7-8時間を要するようですが、ぼくは比較的規則正しい生活をおくるので、これも問題はないですね。

なおi3は日本独自の充電器各(チャデモ)に対応し、日本専用に車高を落としたサスペンションを投入してくるなど、フレキシブルさも大きな特徴です。
当然コストは掛かるのですが、そのコストを嫌ったために「失うものが非常に大きい」ということも理解しているのだと思います。
3シリーズでもドアハンドルを日本専用に設計し、日本市場で立体駐車場に入るように仕様変更をしてきたこともあり、BMWは比較的柔軟な対応ができる会社であるというイメージを持っています。

i3は旧来の自動車、そしてEVの枠組みを大きく越えたクルマとも言え、それは乗る人の自動車に対する考え方すらも変えてしまう(もしくは変えなければ時代に対応できない)「未来の乗り物」だとぼくは考えています。

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